Preparation for revising the "Self Record" mental health app

An iPhone app called Self Record [jibun kiroku] has been developed for users to practice self-monitoring in the context of cognitive behavioral therapy. This workshop was implemented to explore areas of improvement before revising the app. The workshop mainly facilitated discussion regarding how users can easily and continually use the app. Displaying benefits of using the app and increasing feedback based on daily entries were some of the suggestions highlighted in the discussion. At the end of the workshop participants came up with their own apps for mental health services.

企画の背景

精神健康の維持はストレス社会といわれる日本社会において重要な取り組みであり、臨床心理士が担う社会的役割は、ますます注目されつつある。その中でも、認知行動療法(以下CBT)は短期間で治療効果を科学的根拠に示している有効な心理療法である。CBTの技法をより多くの人に低コストで提供できるように「じぶん記録」アプリが開発された。「じぶん記録」アプリでは、日常の活動、考え、気持ちを記録し、ストレスの原因となる環境と環境への反応を理解・改善することを目的とした。2016年度に常勤でストレスをある程度感じている日本人を対象にそのアプリの効果研究(ランダム割当なしの比較試験)を実施した。その結果、アプリを使用した人は、使用していない人と比べて、抑うつ、不安、飲酒量を高く評定したことが明らかとなった。アプリを使用した約60パーセントの参加者は1日でアプリの使用を中断したり、多くの研究参加者より現段階のアプリは使いづらいという意見が報告されたことから、アプリ改定の必要性が示唆された。

どんなワークショップ?

本ワークショップは、2日に分けて行った。まず事前に「じぶん記録」アプリを利用する事を伝えた。1日目では、本ワークショツプの説明をした後に、アイスブレイクを兼ねて自己紹介を行った。その後、議論の中心となる「じぶん記録」アプリの背景を伝え、遷移図を用いてアプリの内容を確認した。その後、3人1グループに分かれて、「じぶん記録」アプリの使い易さと利用継続に関して議論してもらい、その後、全体でアイディアを共有した。ファシリテーターは、挙げられたアイディアをホワイトボード列挙し議論を発展させた。最後に参加者にどのような精神健康のためのアプリ開発が考えられるかを分かち合ってもらった。
2日目も1日目と同様の流れで実施した。2日目ではワークショップの中間地点で1時間のお昼休みを確保した。「じぶん記録」アプリの使い易さと利用継続に関しての議論を終えた後、アプリが臨床現場でどのように活用できるか、それを実現するためにはどのような改修が必要かを話し合った。最後に、参加者に3人1グループに分かれてもらい、精神健康をサポートするアプリ自由に考えてもらい、ポスターにまとめて発表してもらった。

プログラム

Day 1

14:00-17:00

50min

本ワークショップの説明・自己紹介(名前・所属・お題を選んで答える)

40min

アプリ改定の経緯(開発の背景と研究結果)・アプリの内容説明(遷移図で具体的に確認)

70min

アプリのインターフェースに関する議論(使いやすさと利用継続の改善)

20min

新しいアプリ開発に関する提案・まとめ(参加者ならどんな心理支援アプリを開発するか)

Day 2

10:00-15:00

40min

本ワークショップの説明・参加者の自己紹介 (名前・所属・お題を選んで答える)

40min

アプリ改定の経緯(開発の背景と研究結果)・アプリの内容説明(遷移図で具体的に確認)

20min

アプリのインターフェース(操作のし易さ)に関する議論(使いやすさと利用継続の改善)

60min

お昼休み

30min

アプリのインターフェース(操作のし易さ)に関する議論(続き)

50min

心理支援におけるアプリの活用に関する議論(じぶん記録をどのように臨床場面で活用できるか)

40min

新しいアプリ開発に関するポスター発表(参加者ならどんな心理支援アプリを開発するか)

ワークショップの成果

様々なアイディアが挙げられた中から、下記を具体例として述べる。
・アプリの目的をユーザーに分かりやすい表現で明確に伝えること
・ホーム画面で流れが分かるように工夫すること
・現時点では、入力(インプット)と比較して、フィードバックが(アウトプット)が少ないので、フィードバックを増やしすぐ確認できる場所に移動すること
・記録した内容を前日と比較できるようにすること
・タッチ機能やスワイプ機能を使い、入力の負担を減らすこと
このアプリの臨床応用場面としては、臨床心理士との関わりにおいて当事者の情報提供になることや、言語化しづらい内容や年齢層のためにこのアプリを活用できる可能性が示唆された。アプリ開発では、学齢期における問題行動を、自分ではなく、先生・保護者・心理士か入力することによりコミュニティでの支援がアプリを通して可能になる案が挙げられた。

ふり返り

 良かった点としては、事前に相談会に何度も参加し計画案を練ることができたことである。自分では気づかなかった細かい点などを先生方よりご指摘いただき、当日に備えることができた。また、ワークショップを「楽しむ」ことを意識したことも良い点として挙げられる。これまで考えたことがないアイディアを生み出すには、自由な発想を促す「楽しい」「ワクワクする」環境を作ることが大切だと考え、今回のワークショップに挑んだ。結果として、話しやすい雰囲気が生まれ、アプリの改定に取り入れたいアイディアを集めることができた。初めて顔を合わす参加者にとっては、楽しい雰囲気作りは発言しやすい環境づくりになったと思う。またファシリテーターにとっても楽しい雰囲気は進行の助けになった。細かい点であるが、適宜休憩を入れたり、茶菓・軽食を用意するのは、コストがかかるが新しいアイディアを生む自由な環境を作る上で良かったと振り返る。
改善点として、時間の管理が難しかったことか挙げられる。1日目に関しては、予定していた内容の3分の2ぐらいの内容しか遂行することができなかった。自己紹介の際に、参加者が長く話したことは想定外であった。改善点の二つ目に、「自由の発想」と「考えてほしい枠組み」のバランスを保つ難しさであった。今回のワークショップは、アプリの改定に向けてのアイディア集めであるが、実際に改定出来る内容は限られているのが現状である。参加者からは「厚生労働省や企業と連携を組む」などの実現が難しい意見も出たが、ここでファシリテーターやエンジニアが議論に水を差すような発言をすると、参加者の発言自体が少なくなる可能性があった。現実的なディスカッションと自由な議論のバランスを保つのが難しかった。
今後の発展の可能性としては、実際にワークショップで得られたアイディアを改定に取り入れることが挙げられれる。改定を依頼するエンジニアと、予算と時間などを留意しつつアイディアを出来る限り取り入れる予定である。改定されたアプリを使ってみたいという多くの声をもらったので、アプリを改定後も、引き続きアイディアをいただく機会を作りたい。

アイテム

iPhone、じぶん記録アプリ、アプリの遷移図、プロジェクター、スライド、ホワイトボード、模造紙

開催日時

2018年1月17日;2018年1月28日

場所

東京大学GCLラボ

参加者・人数

10名
(臨床心理士4名、臨床心理学コース大学院生4名、看護学専攻大学院生1名、エンジニア1名)

講師/ファシリテーター

浜村俊傑(教育学研究科総合教育科学専攻博士課程2年)

原稿執筆:浜村俊傑