What are emotions? : Knowing them and being with them

Difficulties in emotion regulation among adolescents (e.g., poor emotional understanding, dysregulation of sadness and anger) could be a risk factor for future psychological problems, such as depression, anxiety disorders, and aggressive behaviors. Psychoeducation to raise emotional awareness has been the primary prevention for those problems. However, the lack of theoretical background is recently pointed out.

This  workshop is the first attempt to intervene in “appraisal of emotions,”  based on the theories in the field of psychology of emotion. The workshop is designed to soften negative appraisal of emotions and facilitate emotional awareness. Junior high school students in Tokyo participated in the 2-day workshop. In the first session, they learned the concept of basic emotions. Then, they discussed how the intensity of emotion is interrelated to their behaviors, with a focus on a specific emotion, “anger.” In the second session, they learned the functions of six basic emotions. They also learned about more complicated emotions generated by a combination of basic emotions. Using emotion cards, they were challenged to come up with the adaptive functions of complicated emotions such as contempt and envy. The process of the workshop was recorded to analyze areas for improvements as a psychoeducational program.

The post-workshop questionnaire showed high understanding ratings (mean score of 5.0-6.0 out of 6.0). Some students gave comments mentioning multidimensionality of the functions of emotions. The product of each session (Fig. 1 and 6 ) indicated that a structured workshop and effective feedback could facilitate the meta-cognition of emotions among junior high school students. The following points are the areas for improvements extracted from the practice: 1) consideration for age group and environment, 2) integration to the existing curriculum at school, and 3) use of technologies to share a vivid emotional experience. We expect to have continuous trials and organize a theory-based setting to foster emotional awareness during adolescence.

* Since our workshop might provoke personal emotional experience and needs ethical consideration, we conducted the workshop with IRB approval at the University of Tokyo (#19-110).

企画の背景

思春期における感情の不制御は,うつ病,不安障害,攻撃行動等の発生を予測する。こうした心理的問題の予防策として,感情の理解や調整を目的とした心理教育(*)が行われてきた。しかし,従来の心理教育は,感情に関する理論や実証研究に基づくものが少ないことが指摘されている。
先行研究では,ネガティブな感情を細かく分類して理解できる人ほど,感情の調整力が高いと言われている。一方で,ネガティブ感情に対する否定的な評価(例:「怒りは厄介な感情である」)をもつと,感情の認識や言語化が難しくなる傾向が示されている。このような背景から,筆者は,心理教育において,感情そのものの適応的な機能に注目し,ネガティブ感情の認識を助けることが重要であると考えている。
そこで,本企画では,感情の諸理論を活用して,「感情への評価」に対する介入を含む教育的ワークショップ(以下,WS)を試作し,中学生に体験していただいた。参加者は,WSを通して感情の適応的な機能を発見することを目的としている。企画者は,参加者のネガティブ感情に対する否定的な評価を和らげるとともに,本WSの課題を考察することを目的としている。なお,本WSは,東京大学倫理審査専門委員会の承認を受けて実施された(#19-110)。
*ここでいう「心理教育」とは,主に集団に対して行われる「心理的・社会的健康を増進することを目指した,心理学的知見・心理臨床実践を応用した教育実践活動」を指す。

どんなワークショップ?

本WSは,学校現場での実施を想定しており,教育的要素・体験的要素を含む全2回から構成される。第1回では,まず,基本感情論という心理学的理論をベースに,感情とは何かについてレクチャーを行った。そして,⑴基本感情とかかわる表情や身体感覚を考えるワーク,⑵ある場面で生じる「怒り」の強さや「怒り」に伴う行動を共有するグループワークを行った。第2回では,前半に,「怒り」以外の基本感情(喜び・悲しみ・恐怖・驚き・嫌悪)の機能を考えるワークを行い,補助的な解説を行った。後半には,感情カードを用いて,複数の基本感情が混ざって生まれるより複雑な感情の機能について,グループで考えを出し合った。第2回の終わりには,自分自身の「気になること(嫌だったこと・モヤモヤしたことなど)」をお題として,①その出来事を記述する,②そのときに湧いた感情を記述する,③感情の役割を考え,その感情に前向きな言葉をかける,というペアワークを行った。なお,本WSは,都内国立中高一貫校にご協力いただき,第1回は授業枠内で,第2回は初回参加者のうち有志希望者を募って放課後に実施された。

プログラム

Day 1

(50分+アンケート)

10min

自己紹介・感情に関する心理学的理論のイントロダクション(レクチャー・動画視聴とクイズ)

7min

基本6感情と表情のマッチング(ペアワーク)

7min

感情に伴う身体感覚のブレインストーミング(ペアワーク)

20min

感情の強さとは?:「怒り」を例として(グループワーク)

6min

「怒り」の役割とは?(全体意見共有・本回のまとめ)

5min

アンケート記入

Day 2

(60分+アンケート)

5min

第1回の復習

15min

感情と進化:感情の生物的・社会的役割を考える(レクチャー・ペアワーク)

10min

感情が混ざって生まれる新たな感情を知る(レクチャー・全体意見共有)

20min

新たな感情の機能を探る(グループで行うカードゲーム・全体意見共有)

10min

自分の感情の意味づけを変えよう(ペアワーク)

5min

アンケート記入

ワークショップの成果

参加者は,Fig. 1, 6に示すように多様な感情の存在や機能を体験的に考えることができた。各回の簡易アンケートでは,6段階で関心や内容の理解度を問い,第1回は各項目5.0〜5.3点,第2回は各項目5.6〜6.0点と,高い平均評点が得られた。感想の中には,「感情の強さは人によって違うことを班の人とのグループワークで感じられたのがすごくおもしろかったです!!」,「怒りは単純に憎しみなのではなく,自分を守る役割があるということに妙な気がしたが,確かにそうだなと思った」など,自他の感情への気づきや,ネガティブ感情の適応的機能に関するものが複数見られ,概ね目的に即したWSになった。
企画者は,中学生のリアクションと学校現場での実施プロセスを踏まえて,本WSの課題を考察することができた。具体的な考察は,続く【ふり返り】の節で述べる。また,WS実施前後の「感情への評価」の変化については,別途調査票を回収次第,分析予定である。

ふり返り

本企画を通して,協働や発見に重きを置くWSという実践形態は,感情の機能を考える心理教育の主旨と適合すると感じた。例えば,初回では,同じ感情を体験したときの行動の対照性(強い怒りを感じたときの「殴る・蹴る」または「立ち去る」,「何してんの?と言う」または「舌打ちする」)を取り上げ,参加者同士の感情に対する意識を触発することができた。さらに,第2回で踏み込んだワークを行い,「軽蔑」の機能として,「自分はそんなことをしないと再認識できる」という意見,ある生徒の不安のエピソードに対して,「成功させたいと思っているから緊張して不安なんだね」と,感情の機能を考慮した言葉がけが出てきた。立案時は,中学生にとって感情のメタ認知(=感情を客体化し,その機能を考えること)は難易度が高いと思われた。しかし,段階を踏み,効果的なフィードバックを挟むことで,メタ認知が促進されうることが示された点は意義深い。

本WSの課題と展望については,次の3点から振り返りたい。
⑴年齢層や環境に応じた配慮:感情は個人の体験と紐づくため,ときに教室では語りにくい。多様な意見をWSに反映させるためには,企画者が注意深くアイディアを観察し,類似性や対照性を見出し,共有しやすい雰囲気をつくる必要がある。「面白い意見だからあとで共有してもらってもいい?」などの声かけは有効だろう。
⑵現場に馴染ませる工夫:本WSは学校での実施の都合上,単発の実践として企画された。しかし,各回ともに生徒が自身の感じ方を吟味するのに時間を要したため,数回に分けることが望ましい。保健体育や道徳との共通点に触れた感想もあったため,既存の科目との関連をもたせることで,学校への導入や継続実施のハードルを下げられる可能性がある。
⑶体験的な要素の強化:本WSでは,シナリオや感情カードなど,読み書きの力に依存する素材を用いた。しかし,本来感情は生々しく身体感覚を伴うものである。今後は,生の体験としての感情を共有するのに有効な技術についても検討したい。例えば,VRを通じて,ある場面を鮮明に体験しながら話し合うことや,感情を色や形で表現させる活動などが考えられる。

アイテム

備品類:付箋,丸型シール,プロジェクター,ICレコーダー(記録用)
自作:スライド(レクチャー用),ワークシート(個人用・グループ用),感情カード,アンケート用紙

開催日時

2019年6月25日,7月16日

場所

都内国立中等教育学校 2年生教室

参加者・人数

中学生118名(第1回:40名クラス×3回実施,第2回:有志希望者3名)

講師/ファシリテーター

北原祐理(東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース 博士課程)
アシスタント:臨床心理学コース講師2名(臨床心理士・公認心理師有資格者),臨床心理学コース修士課程学生2名

原稿執筆:北原 祐理