mission00
企画の背景
近年、科学技術コミュニケーションがさかんになってきているが、その多くは、科学者、技術者から社会への一方向的な情報伝達にとどまっているのが現状である。しかし、これまで専門内に閉じこもって開発してきた科学者、技術者は、社会からも学び、それを研究に活かしていくことが重要になってきている。科学技術戦隊ワークショップとは、異なる専門家同士を科学技術戦隊の隊員に見立て、ある1つの課題にむかって身体を動かしながら共同作業を行うワークショップである。これは、2006年東京大学大学院情報学環教育部自治会合宿にて実施されたワークショップ[1]、および、それを発展させたワークショップ[2][3]をベースとしている。
東京大学ソーシャルICTグローバル・クリエイティブ・リーダー育成プログラム(GCL)内GDWSにおいては、2日間にわたって実施する構成にした。以下の通りである。1日目は、まずは概要の説明を行い、1~2名の講師によるミニレクチャーを行った。次に、参加者に課題を提示し、グループワークを開始した。グループは5人1組で構成されている。一人一人が戦隊の隊員である。各科学技術戦隊のグループに対し、戦隊の国際事務局の総長から課題解決の要請があり、最もすばらしい解決案を採用するという形式をとっている。1日目の終わりに、各グループより、初日の進捗の報告をしてもらい、参加者全員で合評した。2日目は、参加者は前日の議論を参考にグループワークのまとめを行い、科学技術戦隊の国際会議にて各グループの解決案を発表、および合評を行った。最後に2日間のまとめを行った。2012~2013年度は、GDWSの準備も含めて3回実施した。その具体的内容については、次項で述べる。
[1]大学院情報学環教育部自治会は、毎年、研究合宿を行なっている。2006年10月は山梨県河口湖町西湖で実施され、その際のアイスブレイクとして戦隊モノのワークショップを行なった。この合宿、およびワークショップに参加した水越伸が、当時研究生自治会長であった岩佐雄人氏らに了承を取り、[2][3]のワークショップへと応用展開させた。
[2]大谷智子・鳥海希世子・水越伸:“オープンスパイラルモデル検証 戦隊ワークショップ「高齢者が暮らしやすい情報社会を作ろう」”独立行政法人科学技術振興機構「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域「メディア・エクスプリモ:情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築」(2011.10.5).
[3]大谷智子・鳥海希世子・水越伸:“オープンスパイラルモデル検証 戦隊ワークショップ「緊急出動!エネルギー浪費を防げ!!~快適でエコな部屋をつくるの巻~」”独立行政法人科学技術振興機構「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域「メディア・エクスプリモ:情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築」(2012.1.21).
どんなワークショップ?
2013年度のカリキュラムを構築するにあたり、テストケースとして2012年度内の2013年2月23日(土)~24日(日)に実施した。参加者は、グループワークやワークショップ経験が豊富な者で、且つ、開催両日参加可能な15名とした。ファシリテータは、水越伸(情報学環・教授)、安斎勇樹(学際情報学府・博士後期課程2年生)、大谷智子(当時:情報理工学系研究科・特任研究員)の3名であった。プログラム構成の進行については、当日スライド一覧を参照されたい。
▼グループワークの課題
今から10年後、地球を離れ、とある惑星に移住することになった。まずは150世帯(600人)が第一陣として、これから、その惑星に旅立つ。移住者は50世帯ずつのコロニーに分かれて生活する。この移住に関して、現在、法律、経済等の分野に関する整備などが各担当部署を中心として進められている段階である。このたび、この地でのメディアとコミュニケーションに関する提案について、当局(科学技術戦隊事務局)に意見が求められた。ここで、課題となる点について挙げる。(1)新しい土地でのコミュニティ作りを計画せよ。(2)地球に残されている家族や知人らとの関係も今まで同様に維持できる仕組みを考えよ。
▼発表の形式
発表の方法は、寸劇や紙芝居などを取り入れてもよいことを伝え、以下の点に留意することを伝えた。(1)戦隊の名前、決めゼリフ、ポーズを冒頭に必ず入れること。その際、戦隊の名前や構成員の特技を紹介し、提案について発表すること。(2)「4人家族の1日」を必ず入れ、自分たちの提案によって、惑星での生活がどのようになるのか、その環境の中での1日の生活が分かるようにすること。
プログラム
1日目 | ||
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13:00~13:20 | オープニング | |
13:30~14:00 | ミニレクチャー | |
14:00~16:00 | グループワーク | |
16:00~17:00 | まとめ | |
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2日目 | ||
10:00~10:05 | オープニング | |
10:05~11:35 | グループワーク | |
11:35~11:45 | 休憩 | |
11:45~13:00 | 発表および合評、ディスカッション | |
13:00~13:15 | まとめ、全体ふりかえり | |
13:15~14:00 | クロージング |
ワークショップの成果
▼ワークショップの様子
○ミニレクチャー
小泉先生は、建物などのハードウェアのデザインだけではなく、人が活動する仕組みなどのソフトウェアのデザインも重要であることを、具体的な例を示しつつレクチャーしてくださった。
中島先生は、情報工学分野からバリアフリー環境のデザインを研究している。視覚や聴覚にハンデがある方と健常者が、一緒に映画を観る環境作りを目指している。ハンデの度合いによって、提供すべき補助技術が異なり、一律に情報を付加することで、返って聞こえづらくなったり見えづらくなったりすることを指摘した。
○アイスブレイク
まずは、グループ内で自己紹介をしてもらった。自分の所属や特技などをワークシートやコースターの裏に書き、相互に見せ合いながら話した。
○グループワーク
限られた時間の中で、意見を出し合い、グループとして1つの提案にまとめる作業をしなければならない。グループは、専門分野が重ならない構成にした。そのため、各分野では当たり前である技術や社会システムについて、同じグループの異分野のメンバーに分かりやすく説明している様子が多くみられた。
○発表
まず、グループの提案を明確に示した戦隊名を公表し、その戦隊のポージング(決めポーズ)を表現した。その後、自分たちのグループの提案による「1日の生活」を分かりやすく寸劇で示した。最後に、その詳細について補足説明を各人が行った。発表後、他のグループのメンバーらを含めた質疑応答を行った。
ふり返り
○mission00全体として
mission00は、次年度以降に向けたテストケースとして、参加者はグループワークやワークショップ経験が豊富な者に限定していた。そのため、グループワークのスムーズに進み、質疑応答では活発な議論がなされた。2013年度の講義中に実施するワークショップは、大半の参加者が、グループワークやワークショップ未経験であることが予測される。これにむけて、Mission00で具体的に設定しすぎた箇所や、ファシリテータやタイムキーパーが各グループに関与する加減を調整することが課題として残された。
開催日時 | 2013.2.23-24 |
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場所 | 東京大学工学部新2号館92B |
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参加者・人数 | GCL生11名 |
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講師/ファシリテーター | 大谷智子(東京大学大学院情報理工学研究科特任研究員)、水越伸(東京大学大学院情報学環教授)、安斎勇樹(GCL/GDWS RA) |
原稿執筆:大谷智子