59-second Horror Story Workshop

People today access various types of visual information in their daily lives, but they are usually unconscious that they also receive a lot of auditory information. We can make use of sound as well as other media to communicate stories or our feelings, and the sound stimulates our imagination indirectly. There has been a growing recognition of the importance of realizing and reevaluating the sounds around us as a ‘soundscape.’
In this workshop, each group made a 59-second horror story through sound. Through recording and editing the sound around them, participants thought about the functions of sound and how it influences human emotion, as well as the relationships between human emotions and cultural and social contexts.
13 participants, from high school students to working people, participated together in the workshop, and actively shared their own images of horror. They worked as groups to make short stories, and after listening to the works, they discussed them. It provided a good chance for all of us to reflect on both fear and sound as media.

企画の背景

このワークショップでは、身近にある音を録音し、59秒間の怖い音のストーリーを創ることによって、音が伝達手段としてどのようなはたらきをし、人の心にどう作用しているかについて考えてもらうことを目的としている。

日常において、私たちは視覚だけでなく聴覚を通して情報を受け取っており、感情やストーリーを伝達できる点で音もまたひとつのメディアと言える。音は目で見るもの以上に個人の経験や感情、文脈によって想像の余地を広げるが、直接的というより間接的にメッセージが伝達されるため、普段は意識しにくい。そのためワークショップでは、人間の心理の中で「怖さ」をテーマに取り上げ、音のはたらきや、私たちと音との関わりについて認識するきっかけとした。

文書のみならずSNSや動画など視覚情報に多く触れる時代にあって、サウンド・スケープ(soundscape:音の風景)の概念が示すように、身近に存在する音を見直す動きも進んでいる。年齢、出身やバックグラウンドの異なる参加者が共に活動しお互いの考えを共有することで、音が喚起するイメージの力とともに、個人の経験や文化的・社会的背景が生み出す多義性についても視野を広げる機会となるだろう。

どんなワークショップ?

導入は、身体から生まれる音としての手叩きや異なる楽器の自由即興を通して音に意識を向け、その後、参加者の「怖い音」に対するイメージを全体で共有。グループ(3名〜4名)に分かれ、音のメディア効果として、心理・社会的文脈から映画などの映像メディアに音・音楽が影響を及ぼす心理的効果の説明や、音から想起されるイメージの実例を紹介し、怖い音に対する理解を深めた。各グループで怖い音のイメージをより明確化した。

後半は、怖い音のストーリーを創作するツールとしてiPadを手に取り、構内や校外に出て、気になる音を録音した。聴覚で認識される音とiPadというメディア媒体を通して聴こえる音の相違を確認後、具体的にストーリーを組み立て、楽器や日常品も活用しながら59秒間の音ストーリーを作成した。完成品にタイトルをつけ、グループ発表し、最後は全体を通してふり返りの時間を持ち、参加者の体験から得られたことを共有した。

プログラム

5min

始まりのあいさつ

10min

アイスブレイク(円になって着席、楽器を使ったゲーム)

30min

「知る活動」(音のはたらきと特徴・怖さについて)
録音した音を聴いて浮かぶイメージ、
参加者にとっての「怖い」ものの共有

6min

「創る活動」ワーク1 iPadを使った録音試し

18min

ワーク2 各グループで音撮り 

5min

ワーク2 リフレクション:録音した音の共有

60min

ワーク3 アイデア出しシート、ストーリーシートの
作成と共有、59秒間の音のストーリー創り 

7min

ワーク3 リフレクション:
音のストーリーの発表とコメント

15min

ふりかえり1 ワークシート
お題1:体験と発表を振り返って

10min

ふりかえり1 ワークシート
お題2:「音」にできること、できないこと

5min

終わりのあいさつ

ワークショップの成果

限られた時間の中で、グループメンバーは積極的にアイデアを出し合い、議論し、録音された音を検証し、恐怖の音のストーリーのイメージに近い音が再現されるまで模索する、といった行動を通して作品は創られていった。各グループの作品は、恐怖を喚起させるような音の伝達性があり、タイトルにも工夫が見られた。参加者の学びとしては、他者の意見に触発され視野が広がったという声や、新しいメディア・リテラシーとしての知見が増えたという声、あるいはイメージ通りの音を具現化することの難しさを指摘する声も挙がった。また、日々、視覚情報に頼りすぎていることを改めて知ったという声もあり、日常にある音により注意を向ける契機にもなったと思われる。

ふり返り

本ワークショップでは、まずグループ内でストーリーの大枠を話し合い、その後部屋の外へ出て欲しい音を求めて歩き、録音し、編集もなく約1分の作品にするというある意味では原始的な活動をした。グループで音を探して駆け回り、1つの作品を創る作業は、単純に楽しいものだったようだ。その中で参加者は自然に、身近に溢れる様々な音に気づき、その音をストーリーを表現するために恣意的に利用し、作品にして発表するという体験をした。当初の『音はメディアである』という学習目標は、かなり達成されたと言えよう。

一方で、限界もあった。生の録音で、かつ編集作業なしという制約から、参加者は思い描いたストーリーの音での再現にかなりの不自由を強いられた。実際に創られた作品は、説明なしには何を表現したものかわかりづらい部分もあった。また、「音」を用いて「怖さ」を表現したのだが、「怖さ」単体でも大きなテーマになりうる内容であり、そこでの混乱もあった。

・今後の発展としては、まず上に述べた創作上の制約を、もっと多様な音が録音できそうな環境・道具を用意するなどの工夫で回避すれば洗練していける。加えて、『音はメディアである』という大きなコンセプトをもっと解きほぐせば、よりピンポイントな学びが可能となる。例えば、音がいかに情報を伝達するかという点に焦点を絞る。全グループが同一のストーリーで作品を録れば、同じ中身でも伝える音の違いで印象が変わりうるかもしれない。あるいは、受け手個人の背景が音の聞こえ方に強く作用する場合がある。蝉の声は、風流と感じる人もいれば、単に騒々しいと感じる人もいる。電話の呼び出し音も、怖いと感じる人とそうでない人がいる。これには各個人の経験や社会的な文脈が大きな影響を与えていると考えられ、こうした点にフォーカスすることもできる。いずれにせよ、人は無意識のうちに音に囲まれ、作用され、音を利用している。音のワークショップは大きな意義を持つと言えよう。

アイテム

iPad
楽器
日用品
ホワイトボード

開催日時

2014.8.24(日)13:00-17:00

場所

東京大学本郷キャンパス情報学環 福武ホール・ラーニングスタジオ1

参加者・人数

高校生3名、東大学生(GCL含む)5名、他大学3名、社会人2名

講師/ファシリテーター

大森創(東京大学経済学部経済学科)
高田由利子(東京大学大学院学際情報学府修士課程)
松山彩香(東京大学大学院学際情報学府修士課程)
李怡然(東京大学大学院学際情報学府修士課程)

原稿執筆:大森創、高田由利子、松山彩香、李怡然