Wearable 2015: Media Landscape without Apple

This workshop was produced as part of the joint research project “Workshop-style Research on the Social Design of Wearable Media,” between Hakuhodo DY partners and Shin Mizukoshi Lab of iii, University of Tokyo from October 2014 to March 2015.The mission was presented in the workshop as follows:“If Apple had disappeared in 2007, and there was no iPhone, what kind of media landscape would we have now?Please present your impression of this scenario with a video and a report.Participants will make three groups and each cover one of the following themes: Life & Culture, Public & Governance, and Business & Industry.The facilitators of GDWS only have two suggestions:One, don’t create a superficially idealized vision of the information society.Two, collaborate.”In this series of workshops, multi-disciplinary scientists, designers, and business people collaborated with each other to conceptualize alternative media landscapes or parallel worlds without Apple or smartphone-like devices. During this process, participants were able to activate their mediological imaginations.This workshop demonstrated a possible new form of media literacy education in the digital media society.

企画の背景

 このワークショップは「ウェアラブル・メディアの社会的デザインに関するワークショップ型研究」という、博報堂DYメディアパートナーズと東京大学情報学環の会田で進められた共同研究の一環としておこなわれた。この共同研究の趣旨はつぎのとおりであった。
 「近未来のメディア環境を展望すると、次世代コンピューティングとしても注目されるウェアラブル・テクノロジーは、デジタルネィティブな若者層から高年齢層まで広範囲な利用が見込まれ、今後生活者への急速な普及、浸透が予想されます。しかし、ウェアラブル・デバイスの普及、浸透には、セキュリティやプライバシーの問題をはじめ、コミュニケーション上のルールやマナーなどの面からも様々な問題点があります。また、関連するビジネス市場の立ち上がりにおいては、従来のビジネスとは異なった知見や能力が必要とされるものと思われます。
 そこで、博報堂DYメディアパートナーズと東京大学大学院情報学環水越研究室は、内外のウェアラブル・テクノロジーの概況を把握した上で、「ウエアラブル・メディア」の全体像を明らかにし社会生活と結びついた潜在可能性を明らかにするため、学際的で協働的なワークショップ型研究を行います。
 研究としては内外のウエアラブル・テクノロジーの概況を把握した上でその歴史・現在・未来を共創し、ウェアラブル・メディアの全体像を俯瞰図として明らかにします。また人間の社会的経験と結びついたその潜在的な可能性を探るため、実務者・研究者・学生らが学際的で協働的なワークショップを行い、ウエラブルメディアが社会生活をより良きものとするための課題の抽出やアイデアの創造を行います。(同共同研究趣意書・広報資料より)」
 以上のような趣旨のもとで、今回は既存の産業的な言説、流行のスローガンに乗ってウェアラブルに取り組むのではなく、今あるウェアラブルに操作的、批判的に取り組むためにワークショップを導入した。

どんなワークショップ?

 冒頭で本WSの目的は次のように説明された。

  2007年にAppleがなくなり、iPhoneが発売されなかったとします。
  そうなったとき、2015年のメディア環境はどうなっているでしょうか。
  映像作品とテキスト作品で描き出してください。

  ウェアラブルやモバイル・メディアの状況を必ず入れ、「生活・文化」「行政・公共組織」「ビジネス・産業」の領域ごとに構想すること。

  注意点は二つだけ。
  バラ色の情報社会論にならないこと。
  共創をすること。

 本WSの目的は、情報社会、メディア環境のオルタナティブな姿、パラレル・ワールドの構想づくりを通して、メディアの技術的、産業的、文化的を相関するシステムとしてとらえ、人間や社会の側からメディアのありかたを構想する力を身につけることである。
 今回は一般市民向けではなく、博報堂社内各部署から公募された有志、GDWS特任助教(会田大也、後藤智香子、林直樹)、さらにGCLをはじめとする東京大学大学院生らがそれぞれの専門家として協働する、ハイレベルの参加者を前提としたプログラムとなった。
 まず10月から12月までの2カ月間は、ウェアラブル・メディアに関連する産業、アート、技術、教育、文化などについて各領域の専門家からのレクチャーを受け、質疑応答をし、基礎的な知識を高めた。
 次に1月から2月まで、合計4日間を使い、集中的なワークショップをおこなった。3チーム(合計15名)がそれぞれグループワークをおこない、最終的には5分程度のビデオを制作し、それぞれの構想内容をまとめた。
 成果は2つの発表会にて発表した。
 3つのチームメンバーは、社会科学における社会の一般的な区分に従い、それぞれ次の通りである(所属、肩書きはいずれも当時)。

プログラム

レクチャー

ウェアラブル・メディアに関連する産業、アート、技術、教育、文化などについて各領域の専門家からのレクチャー、および質疑応答

10.31(金)16:30-18:30

□連続レクチャー01
上路健介「メディア業界から」
東京大学工学部2号館92B教室 

11.14(金)16:30-18:30

□連続レクチャー02
山内祐平「教育工学から」
東京大学大学院情報学環福武ホール1階会議室

12.5(金)18:30-20:00

□連続レクチャー03
伊藤隆之「YCAM InterLabデジタルコンテンツ制作の現場から」
東京大学工学部2号館241号講義室
(「東京大学工学部電子情報工学科メディアコンテンツラボ主催・学部横断型教育プログラム講義メディアコンテンツ特別講義II」の授業と合同開催)

12.19(金)17:30-19:30

□連続レクチャー04
水越伸「WSの進め方とメディア史的想像力」
東京大学工学部2号館92B教室 

ワークショップ
1.24-25(土・日)11:00-17:00

□連続ワークショップ01
東京大学工学部2号館92B教室 
ファシリテーター:水越、ソン、章、チャン

<1/24>30min

集合、概要説明

<1/24>330min

自己紹介、グループワーク(昼食あり)/各領域の専門家からなる精鋭部隊なので、あえてスケジュールを分節化せず、協働作業を深めてもらった

<1/25>〜240min

チームごとに時間を決めて集合、グループワーク(昼食あり)

<1/25>120min

中間発表とディスカッション

2.14-15(土・日)11:00-17:00

□連続ワークショップ02
東京大学工学部2号館92B教室 
ファシリテーター:水越、ソン、安斎、大谷

<2/14>30min

集合、概要説明

<2/14>270min

グループワーク(昼食あり)

<2/14>60min

中間発表とディスカッション

<2/15>〜240min

チームごとに時間を決めて集合、グループワーク(昼食あり)

120min

最終発表とディスカッション
粗編集されたコンセプトビデオ、およびスライド原案が完成。

WS後、以後の発表会に向けて各チームがそれぞれ自主的にブラッシュアップ作業をおこなった

発表会
2.28(土)13:15-14:45

□発表会01(GDWSシンポジウム)
勝野正博(博報堂DYメディアパートナーズ)、水越伸(情報学環)ほか
本郷キャンパス福武ホール福武ラーニングシアター

3.2(月)14:30-16:00

□発表会02(博報堂社内会合) 
勝野正博・中杉啓秋(博報堂DYメディアパートナーズ)、水越伸(情報学環)、後藤智香子・会田大也(GDWS)、池上舞、岩渕真理、北田萌香(以上、学生)(関係者を除き、参加者52名)
博報堂DYメディアパートナーズ

ワークショップの成果

・本ワークショップの概要ビデオと、4日間のグループワークの全映像記録をアーカイブした。事後のインタビューをおこない、今後ワークショップ・デザインの資料として活用する予定である。
・各領域のエキスパートによる濃密なグループワークを経験することで、産学連携、学際的協働に必要なコミュニケーションの素養と術を手に入れることができた。
・ウェアラブルをはじめとするデジタル・メディアについて、技術、産業、社会などさまざまな観点からの知識を手に入れ、総合的にとらえることができるようになった。また一見動かしがたく現前するメディア環境のオルタナティブを想像するトレーニングによって、メディアを操作的にとらえることができるようになった。
・各チームがそれぞれ5〜10分のコンセプトビデオとレポートやスライドなどで説明資料を作成した。各グループの構想をおおまかにいえば次の通りである。
──生活・文化グループ「四次元ポケット:i-Pocket」
Appleがなくなったあと、失意のスティーブ・ジョブスが日本の「ドラえもん」からヒントを得て「四次元ポケット:i-Pocket」を開発。触覚コミュニケーション機能などを進化させ、Pocketerなど新たな服装文化をも生みだすウェアラブル・メディアが登場する。
──行政組織・公共グループ「総国民見護りプロジェクト」
国家が主導し大手企業が共同して生みだした情報集約データフォーマット「mimamo」が国民の行動監視に利用されていることが発覚、ベンチャーで立ち上がった「Mimamorium」が若者の支持を得て普及する。中央対地方、シニア対若者といった国論を二分するかたちで両システムが拮抗する社会を描く。
──産業・ビジネスグループ
Appleがなくなり、iPhoneが登場しなかった日本では、マルチメディア化した筆箱、通信機能を持つCPU内蔵ペンとディスプレイ化する手帳、リング型メディア、眼鏡型ディスプレイ、ホワイトボードボックス、tabottle、傘型蓄電池など、多様なメディアが独自の進化を遂げ、オルタナティブなガラパゴス化現象が爛熟する状況を描いた。

ふり返り

・参加者からは、ここでのグループワークのような、ある意味で奇想天外な構想づくりは「自分の研究室だったらつぶされる」「会社だったらつぶされる」「だけれどとてもおもしろく、深い」「それを自由にやりきれた」という感想が、WSのあいだ、あるいは事後のインタビューにおいて数多く聞かれた。
・メディア論的な想像力を養い、実践的で知的なベースキャンプをこしらえることができた。ここを起点に、「つぶされない研究」「つぶされない企画」に取り組んでいくことができるだろう。そうしたかたちのベースキャンプづくりのためのワークショップ・デザイン、メディア・リテラシー研究を深めていく見通しが立った。
・同じ設定のワークショップを各国でおこない、比較文化的な考察をおこなう可能性も見えてきた。

アイテム

PC、iPad、コダックSP360(オンボードカメラ)、プロジェクター、PowerPoint、iMovie、模造紙、付箋、ドローンParrot

開催日時

2014.10月〜2015.3月(上記参照)

場所

(上記参照)

参加者・人数

15名(ワークショップ部分の参加者)
(GCLコース生、大学院学際情報学府生、大学院工学研究科生ほか学生8、博報堂関係者4、GDWSメンバー3)

講師/ファシリテーター

講師:
上路健介(博報堂DYメディアパートナーズ)
山内祐平(東京大学大学院情報学環 教授、GDWS)
伊藤隆之(山口情報芸術センター技術課長)
水越伸(東京大学大学院情報学環 教授)

ファシリテーター:
水越伸(東京大学大学院情報学環 教授)
宋 知苑(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 RA)
章 蓉(東京大学大学院GCL GDWS RA)
チャン・スヨン(東京大学大学院学際情報学府)
安斎勇樹(東京大学大学院情報学環 特任助教)
大谷智子(東北大学電気通信研究所 助教)

原稿執筆:水越伸