Evaluation and Improvement of a Mental Health Support Platform Website Using Social ICT

There are several mental health services using social ICT, but we still don’t know what the most effective approach to these services is. The main objective of this workshop was to improve the mental health support platform website, which Shimoyama Lab members previously made. The site “Kokoro-no-Techo” contains three services: psychoeducation related to depression, support for monitoring users’ daily activities and condition, and resilience training. We conducted training for employees in the Nakano area in Tokyo, and they provided survey data on mental health, the employee training, using the service, and so on. Analyzing the data and comparing “Kokoro-no-Techo” with other mental health websites suggested the need to improve viewability, to better target users, and to provide more suitable advice to users suffering from various mental conditions and with differing attitudes towards mental illness.

企画の背景

 企画者のプロジェクトは、社会的課題であるメンタルヘルス問題の解決を目的とし、ソーシャルICTを活用した臨床心理学的支援方法の研究・開発を行っている。これまで、抑うつや不安といったメンタルヘルスの問題解決の有効性が実証されている認知行動療法に、ゲーミフィケーション理論を加えて、利用者が楽しみながら、自分で自分の心理的問題を解決していくWebサービスを開発してきた。そして、これまで開発してきた多様なWebサービス群を統合し、自身のメンタルヘルスに多側面からアプローチできる場を提供するのが心理支援プラットフォーム「こころの手帖」である。本ワークショップは、「こころの手帖」を題材とし、社会的活用への関与と複合的視点によるディスカッションを通してソーシャルICTを活用した臨床心理的支援について学び、新しい臨床心理学的支援方法や研究のあり方について検討することを意図している。

どんなワークショップ?

 2015年10月に東京都中野区の協力を得て、「こころの手帖」の効果検討と社会的活用のための実証実験を実施した。この実証実験は企画者が実施する対面での研修実施だけでなく、臨床心理士によるWeb上での心理支援を実施することで、自己のメンタルヘルス状態に対する体験的理解を目指すものである。本WSはこのプロジェクトへ参画する形で実施された。
 WSの参加者はまずソーシャルICTを活用した心理支援の実際、臨床心理学領域における実践的研究法と関連したWSの手法を学ぶ。次に「こころの手帖」を用いた上記実証実験に参加し、WSについて実践的に学ぶ。次に、個々の問題意識を深める形でデータに基づいたプラットフォーム評価を行い、最後に改修案を含めた評価報告と今後の発展可能性についてのディスカッションを行う。WS全体を通して、学生が研究法としてのWSの実際を学び、その実施技能を体験的に身につけることが目指されている。

プログラム

1日目(9.9)

自己紹介
インターネットを用いたメンタルヘルス支援についての講義

2日目(9.29)

心理支援プラットフォームのWebサイトの試用
サイトを併用した東京都中野区での研修計画と内容の共有
サイト改修に向け、問題意識により受講者2〜3人程度ずつのグループを編成(3グループに分かれ、それぞれ「プラットフォーム上のうつ心理教育サイトと他のうつ関連サイトの比較」「研修受講者アンケートやサイト内の“心理士に相談“の利用率の傾向把握」「うつセルフチェックとサイト内トレーニング利用頻度の関連の把握」をテーマとした)

3日目(10月中、受講者それぞれ2時間程度)

プラットフォームを利用した職場のメンタルヘルス研修、および臨床心理士による利用者へのサイト上でのコメント・フィードバックの見学

4日目(11.3)

研修と関連したサイト利用促進のための評価・分析案の発表

5・6日目(11月中、グループごとに異なる)

実際のデータ分析・評価(中野区での研修で得られたデータの分析や文献の情報を参考に)と改修案作成に向けた考察

7日目(12.16)

改修案の最終発表
効果的な運用に向けた提言をまとめる

ワークショップの成果

本ワークショップでは、「こころの手帖」の実証実験で得られたデータを分析し、より質の高いメンタルヘルスケア・サービスとしていくための改修の方向性を以下のように提案した。
基本属性登録の必要性:今回は個人情報に配慮し、匿名の研修ということで行ったが、特にWeb上でのサポートについては基本属性を把握できないと適切な言葉掛けが困難である。
目的の明確化とターゲットの特定:各サービスのエビデンスを整理し、サービスの目的とターゲットを混同しない。「レジリエンストレーニング」は自尊心や自己肯定感の低い人にターゲットを絞る。「うつ・いっぽ・いっぽ」を目的を予防的な心理教育に絞るなど。
継続して利用するための動機付け:具体的な目標(回数)の設定機能や臨床心理士が達成回数毎に定期的にフィードバック(励まし)を送る機能を追加する。尺度を追加してトレーニング効果を可視化し、実感できるように工夫を行う。
提供情報やフィードバック結果のわかりやすさ:情報を集約して絵や動画を中心に構成する。デザイン面で工夫を行う。フィードバックは得られたデータをシステムの側で集約し、理解しやすい形で利用者に返す。
人が見える支援による安心感の醸成:監修者(専門家)の写真や言葉を載せる。信頼できる支援施設を紹介。メッセージ受付完了の自動配信機能の追加。
サービス自体の利用しやすさの追求:スマートフォン対応など、Webサービス自体に「いつでも・どこでも」というITならではの良さをさらに盛り込む。

ふり返り

・ソーシャルICTを用いて心理支援を行う試みはまだ始まったばかりである。今回のような実証実験はある程度の質の高さを有する心理支援サービス、それを利用しフィードバックをくれる利用者、実証実験を計画し実行する実施者の3者が不可欠である。心理支援サービスと実施者の面ではここ数年着々と準備を整えてきたが、昨年度のワークショップではモニター集めに苦労し、なかなか実証実験には至らなかった。本年度は中野区との連携により実証実験の参加者として職員の方も関わってくれた。まずはそこに感謝しており、この場を借りてお礼を申し上げたい。
・今後の発展に向けて、実証実験という第一段階はクリアできたといえ、成果として見られたように様々な課題が見えてきたのも事実である。例えば、今回の実証実験は対面+Web上でのコミュニケーションという形で行ったが、各サービスの利用や心理士への相談回数は当初予定していたよりも少なかった。これについては成果で提案したように、工夫することでより利用しやすいサービスにすることがまだまだ可能であり、今後の活用に向けて改修を行う予定である。
・もっとも、同じサービスであってもそれが使用される場や人によって、使用のされ方や受け止められ方は異なる。今後企業や学生相談、対面での心理支援の補助など、どういった形で発展させていくかによってかなりシステムを細分化させていく必要がある。利用者のパソコンスキルや職場環境なども踏まえながら何度か違った人や場所で検証を重ね、どういった形での提供がどういった人や場所に最大限の効果を発揮できるのか、まずはある程度の肌感覚を持っておくことが大事であろう。
・一方で、特に心理支援においては個人情報やプライバシーの問題は、どういった場であっても非常にシビアな問題である。ICTを用いた心理支援であっても、対面での心理支援における環境操作や非言語的なコミュニケーションと同様に、きちんと守られている感じを担保し、利用者の安心感を高める働きかけは必要不可欠といえるし、今回のワークショップでもそのことは改めて感じられた。

アイテム

Webサイト「こころの手帖」、PCまたはタブレット端末

開催日時

2015.9月〜2015.12月

場所

東京大学弥生キャンパス総合研究棟演習室、中野区役所職員研修センター

参加者・人数

7名
総合教育科学専攻(M1)5名、同(M2)1名、学際情報学府(M1)1名

講師/ファシリテーター

菅沼慎一郎(東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻 特任助教)
大上真礼(東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程 GCL RA)
下山晴彦(東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻 教授)

原稿執筆:菅沼慎一郎・大上真礼