Healthy community development workshop with women dairy farmers in Okhotsk

Background: As a framework to improve community health, which is health and well-being of people in the community, community organizing is one of the keywords of community-based participatory research in public health sciences. Community organizing is defined as the process by which community groups are helped to identify common problems or change targets, mobilize resources, and develop and implement strategies to reach their collective goals. In agriculture, men have long been at the center of the decision-making process in Japan, but in recent years various women’s groups have been active in this process. The objective of this workshop was to discuss the development of a healthy community with female farmers and support agencies.
Methods: The workshop was held in Saroma town, Okhotsk region, Hokkaido, Japan, on 27 January 2020. 26 members participated; 19 female dairy farmers, and seven civil servants. The workshop consisted of three sections: (1) farm work accidents, (2) suicide prevention measures, and (3) society and health. In each section, a facilitator talked using statics and academic evidence first, followed by a group discussion among the participants. The opinions of each group were shared with all the members.
Results: We summarize the opinions of participants as follows.
(1) How to prevent farm work accidents?
Share information. Workers should often engage in chit chat with their fellow farmers. Routine jobs also need to be reconsidered. Take a break.
(2) What makes it difficult to ask for help in the community?
There are many well-known people in the local hospital, and residents were worried about privacy leaks by them. They are afraid to become the center of local gossip. Driving to hospitals is hard work, whereas it is difficult to ask someone. It is confusing which department of the hospital they should go to. Work-life balance is difficult among family-run farmers. Communication with employed workers that have various backgrounds can be a cause of stress. The members of group activities tend to be fixed, and there are isolated persons. Communication among family members can also be troubled.
(3) How to make the community healthier?
Positive point of the area: beautiful nature. Social supports. A lot of support for raising children. There are many farmers, and it makes possible to plan activities. Negative point of the area: population decline and aging. Less active. Opportunities for gathering are decreasing. Duties of regarding the management of group activity are burdensome. There is an atmosphere that hates new things and changes. To get an understanding of mental illnesses by neighbors is difficult. Medical resources are limited, and access requires a lot of effort. Nothing can be done without a car. Shortage of dairy farming workers and support organizations. Ideas for improving community health: Increase opportunities of gathering. Do workshops with various topics. Intergenerational communication. Community-run bus. A place to get information. An opportunity to hear the opinions of people coming from outside.
Conclusion: This workshop somehow clarified the female farmer’s insights. There are possibilities that information technology can solve some of the problems. Further workshops should be held with participants from various organizations. It is also important to figure out how to include men in discussions on these themes.

企画の背景

健康な地域づくり(地域に住む人たち全体の集団レベルの健康やウェルビーイングの向上)のための社会環境の整備を行うモデルとして、コミュニティの組織化が注目されています。コミュニティの組織化とは「コミュニティの集団が、共通の問題を同定したり、目標を変更したり、資源を動員したり、地域の目標を達成するための戦略を策定し実行するのを支援するプロセス」であり、住民自身が地域の課題を設定することや、組織間や組織と住民との連携づくりなどが含まれます(Minkler and Wallerstein, 2015)。地域や地域で盛んな産業の特性を踏まえた、健康な地域づくりのためには、当事者である住民の参加が重要です。また、日本の農業分野では長らく男の人が意思決定の中心を担っていましたが、近年様々な女性グループが活躍しています。本ワークショップでは、そんな女性グループの皆さんや、グループ活動を支援する関係機関の方たちとともに、今後の地域づくりについて考えます。

どんなワークショップ?

テーマは、農作業事故、自殺予防対策、さらに社会と健康の関わりについて。最新の健康情報の統計や研究を紹介しながら、4-5人ずつのグループで話し合いを行いました。
(1)農作業事故:まず個人で「ヒヤリハット体験」をアンケート用紙に記入。その後、農作業事故の統計や、実際の事故事例・その後の予防対策などを紹介。最後に、グループで感想を共有しながら「自分でやってみたい対策方法」をアンケート用紙に記入。
(2)北海道の自殺の現状:日本や北海道の自殺率の分布・推移の統計、さらに酪農や畜産が盛んな地域で自殺率が高かったという最新の研究結果を共有したあと、一般的な自殺対策方法について紹介。その後グループ内(10分)・全体(10分)で感想を共有した。
(3)社会と健康の関わり:ジェンダーと健康の関わりや、人とのつながりと健康に関する研究を紹介。その後「地域の良いところ」「地域の困りごと」「地域を良くするためのアイデア」について、個人でアンケート用紙に記入(7分)、グループで共有(10分)。その後全体にて共有し、総合討論(23分)。

プログラム

10:30~10:35

自己紹介

10:35~10:55

労働安全は最優先で考えよう:農作業事故予防のために (笠井氏)

10:55~11:15

ディスカッション

11:20~11:40

北海道の自殺の現状、その予防のために(金森)

11:40~12:00

ディスカッション(感想の共有)

12:00~13:00

昼食をとりながら意見交換

13:00~13:20

女性の輝ける地域づくり、健康な地域づくり(金森)

13:20~13:40

ディスカッション(地域の良いところ、困りごと、地域をよくするアイデア)

13:40~14:00

総合討論

ワークショップの成果

参加者から寄せられた意見を、話題ごとにまとめます。
(1)農作業事故の対策
情報を共有する。何気ない会話も大事。毎日の同じ作業でも見直しが必要。危険の伴う作業がほとんどなので、休憩を適当にとる。気持ちも身体も無理しすぎない。忙しい時こそケガに注意し声を掛け合う。
(2)北海道の自殺の現状への感想
病院や役場にも知人が多く相談しづらい。噂になると本人は言いづらい。病院への運転がつらい、他の人にも頼みづらい。病院のどの科に行っていいかわからない。金銭問題、家庭問題、経営問題などが背景にあることも。仕事と家庭のオンオフがつけづらい。近年農業も、従業員や色々な人と作業することが多くなったので悩みにもなる。外に出ることは大事だが、いつも集まるメンバーは同じ。夫婦や家族で意思疎通ができないと閉塞感が増す。安心して休める日が無い。
(3)社会と健康の関わり
■地域の良いところ: 空気や星がきれいで自然が豊か。野生動物が多い。食べ物がおいしい。人が優しく助け合いができる。町が狭い分、ある程度の用事であれば生活はしやすい。子育て・教育環境が整っている。農業が盛んで酪農家も多いので、勉強会等企画しやすい。
■地域の困りごと: 人口減少・高齢化。元気がない。人と集まる機会が少なくなってきている。役回りが負担。新しいことや変化を嫌う雰囲気。心の病気へ地域の理解が得づらい。医療の選択肢が少なく、専門病院受診のために札幌まで行くことも。車がないと生活できない。噂がこわい。酪農や支援組織の人手不足。
■地域を良くするためのアイデア: 集まる場を増やしたい。女性向けの講演をやってほしい。月に1回でも世代間交流がしたい。コミュニティバス。一人でまったりできるカフェ。情報を伝える場所が必要。外の人の意見を聞く場(町外出身者、Uターン、Iターン)があると良い。

ふり返り

【企画について】
今回のワークショップは、酪農女性グループの「楽農カフェ」メンバーと、道の機関である農業改良普及センター職員の笠井さんからの呼びかけで始まりました。「楽農カフェ」では酪農家女性が勉強会を定期的に行っており、幅広い視点を学ぶきっかけを作っています。金森の研究内容に興味をもって下さり、健康で女性の輝ける地域づくり、社会と健康の関わりについて話を聞きたいと企画してくださいました。
農作業安全対策の担当として活動を行っている笠井さんは、農業を営む方の健康に直結する重要なテーマであるにも関わらず、農作業安全というテーマだけでは勉強会に来てもらいづらいという課題を感じていました。広く地域全体の知識を高めていく必要があるのに、なかなか人を集めづらいという課題は、自殺対策においても共通しています。
今回は、はじめに(1)農作業安全のセッションで日頃の働き方について振り返り、次に(2)自殺対策のセッションで自分や家族、隣人の抱える生きづらさについて考えました。最後に、(3)ジェンダーや社会と健康の関わりについてのセッションでは、地域の良いところ・困りごとを共有したうえで、地域を良くするアイデアを出し合いました。限られた時間の中でたくさんのテーマを扱いましたが、様々な視点が持てたことは良かったかと思います。「盛り上がらないかと思っていたけれど、予想以上に盛り上がった」という声も聞かれました。
【今後について】
家族経営だからこその、仕事のオン・オフの切り替えづらさ、夫婦や家族間のコミュニケーションといった話が盛り上がりました。公的機関ですら知り合いが多く相談しづらい、どの科を受診したら良いかわからない、といった声も聞かれました。家族経営協定(外部の人家族の話し合いをサポートしてもらう)を結ぶ、SNSを通じて地域外の友達を作る、オンラインの医療相談サービスを受けられる可能性など、様々なサポート方法を共有しました。また、こういった情報を共有できる場自体の必要性も挙げられました。さらに、町外出身者やUターン、Iターンなど外の人の意見を聞く場があるといいという話が盛り上がり、その後のアンケートでも複数意見が寄せられました。地元出身でないからこそ、地元の人が思いもしなかった地域の魅力を発見できるなど、よい刺激があるかもしれません。
今回は女性の参加がほとんどでしたが、本当は男性にも来てほしいという声も聞かれました。さらに、町役場など様々な職種の人で話したいという話も。新しいつながりの醸成への期待も込めて、これからも多様なテーマを扱うオープンな勉強会を行ったり、複数のテーマを同時に扱ったりするのは一つの手かもしれません。また今後も、農業改良普及センターを通してこのようなワークショップを様々な地域で行えたら、という提案もありました。

アイテム

PC、プロジェクター、レクチャー用スライド、模造紙、ポストイット、マーカーペン、お弁当、飲み物、お菓子、アンケート用紙

開催日時

2020年1月27日(月)

場所

北海道佐呂間町若佐コミュニティセンター会議室

参加者・人数

合計26名/オホーツク地域の農業女性グループ「楽農カフェ」メンバー9名、遠湧地区管内酪農家女性10名、北海道オホーツク総合振興局 網走農業改良普及センター職員6名、遠軽町職員1名

講師/ファシリテーター

東京大学大学院医学系研究科 博士課程 金森万里子
網走農業改良普及センター遠軽支所 笠井千会

原稿執筆:金森 万里子