Think the future of Wholesale markets

Food is an ecosystem service crucial for human survival. However, the production of fruit and vegetables, for example, is strongly influenced by natural conditions, and given its perishable nature, short-term supply and demand adjustments are essential. In Japan, a “wholesale market” exists for the stable supply of food, and the function of supply and demand adjustment plays a role through daily transactions.
Before implementing the workshop, we conducted a choice experiment on buyers in the wholesale market, for which quantitative evaluation has been limited due to data limitations. Furthermore, our results showed that the diversity and complexity of the buyers in the wholesale market and the presence of a quality connoisseur who maintains a high quality make it possible to achieve a current, stable supply and demand of food. Meanwhile, from additional research, we found that the difficulty of buyers’ management has become more severe due to the pandemic, and the maintenance of diversity itself is an urgent issue.
Therefore, in this workshop, we worked with the buyers who cooperated in the survey. First, we discussed the issues and measures for realizing a wholesale market that makes sustainable development possible while maintaining a diverse range of buyers by exchanging opinions from various perspectives and positions. Then, from the dynamism of ideas through this workshop, the aim was to “think about the future of a wholesale market that can respond flexibly to drastic changes in the environment”.

企画の背景

食料は、生きていくために欠かせない必需品です。しかし、例えば青果の生産は自然条件の影響を強く受け、かつ腐敗性を有するため、短期の需給調整が不可欠です。安定的な食料供給のために日本では「卸売市場」が存在し、日々の取引によって需給調整機能が担われています。
企画者はこれまでデータの制約から定量的評価は限定的だった卸売市場の買い手を対象にワークショップの実施に先駆けて選択実験を実施しました。その結果、卸売市場の買い手の多様さと複雑な連携、そして品質などを高く保つ目利きの存在があることで、現代の安定的な食料需給が実現していることがわかりました。一方で追加調査からは、パンデミックの影響により買い手の経営難は一層深刻化しており、多様性の維持自体も喫緊の課題であることがわかりました。
そこで本ワークショップでは、調査にご協力いただいた実務者・各業態(卸売会社・仲卸業者・小売業者)の方々と一緒に、上記調査の結果から一歩踏み込んだ形で多様な買い手を維持し続けながら、持続的な発展を可能とする卸売市場を実現するための課題と方策を多様な目線と立場から意見を出し合い、検討します。そして、本ワークショップを介した意見のダイナミズムから、「食料需給の激しい変化にも柔軟に対応できる卸売市場の未来を考える」ことを目的とします。

どんなワークショップ?

東京都中央卸売市場大田市場にて、ソーシャルディスタンスを確保し、対面にてワークショップを実施しました。プログラムは3つのアクティビティを中心に、業態の異なる参加者が意見を共有し合い、検討を行いました。

(1) アイスブレーク:アンケート結果を用いた順番並べ替えクイズ(カード形式)。外部(学術)の視点から評価されうる「強み」や「卸売市場の存在の重要性」を知っていただく。
(2) アクティビティ1:市場全体・他業種・ご自身の視点を行き来し、それぞれが果たす役割の重要性を多面的に認識する。
(3) アクティビティ2:ポストコロナの時代、そして将来においても持続可能な卸売市場の在り方を思考する。

プログラム

20min

挨拶・趣旨説明・自己紹介

30min

アイスブレーク

30min

知る活動:アンケート結果の報告

40min

アクティビティ1

30min

全体での意見共有

10min

小括

10min

休憩

40min

アクティビティ2

30min

全体での意見共有

30min

全体を通しての振り返り

20min

まとめ

ワークショップの成果

卸売市場では、卸売会社(以下、売り手)が出荷者から委託された青果物を、仲卸業者や小売業者などの売買参加者(以下、買い手)へ相対取引や競売で販売します。売り手・買い手の立場からは下記のような意見が出されました。

■大田市場の強みは、買い手の多様性
・高級果実専門店からスーパー、ディスカウントストア、八百屋さん、転送(地方の卸や仲卸、スーパー)、業務用需要までの様々な買い手が存在している。大田市場は、買い手の多様性により、「質も量も扱える市場」となっている。

■ 多様性の維持への課題
・中間業者であるために、立ち位置が難しい。供給側も、需要側も大規模化が進む一方、卸売市場のあり方は現在のままでは意見が通しにくい。
・産地や売り手・買い手とのやりとりが、意思疎通がLINEなどの文字だけになってしまっている場合もある。多様なステークホルダーとのやりとりを効率化し、確実に情報伝達できるものの、信頼関係が築けていないと思われる。信頼関係を深めるには、電話や対面でのやりとりも軽視できないのではないか。
・売上に直接的には繋がらないコストのかかる取り組みを、リードできる売り手や買い手を中心に行っていくべきではないか(有機・特栽・減農薬や個人出荷の農産物仕入れの強化、店舗レイアウトの検討、対面販売によるコミュニケーションなど)。

■ 卸売市場が評価できなくなってしまうことへの危惧
・大規模生産では、品種改良も伴い、収量はより安定化している一方で、食味の維持との両立は難しい。生産者と(買い手の)顧客とともに、どのように連携をとっていくかが難しい。
・かつては、美味しいのに見た目が悪いために売れない商品を取り扱う取り組みがあった。売上金額や取引の効率化ばかりに走らず、評価する仕組みをもっていれば、生産者の信用に繋がる。売り手だけ、買い手だけでは取り組めないので、市場全体で取り組みができる仕組みづくりを検討する時期に入っている。

■ 買い手にとっての競売:毎朝競売に参加し目で見て購入することで、食味も重視した仕入れができ、自信を持って勧められる。1日休むと相場がわからなくってしまう。

■ 売り手にとっての競売:一方、取引が朝の競売メインから、前日の相対取引へと変化して久しい。朝の競売に参加する買参人の数が減少してしまい、朝に商品を売り切ることが一層難しくなってきている。価格の見通しも目利きの一つ。

■「買い支える」という意識
・日本で最大規模、建値市場の役割もある大田市場の相場は、日本の青果物の価格に大きな影響を及ぼす。価格については他の卸売市場とは一線を画しており、価格の安さを追い求めるより、買い支えなくてはならないという意識をもつ買い手もいる。出荷者との信頼関係は、こんなところからも築かれている。安さを最優先に求めるなら、大田市場ではないかもしれない。

ふり返り

本ワークショップは、研究にご協力いただいた多様な立場の方々との対話を目指し、企画を行いました。業務時間のピークが各業種によって異なるため、短い時間での実施となりましたが、ご参加いただいた方のお時間が許す目一杯の時間で話し合うことができました。

同時に残された課題として、時間の制約から、「買い手の多様性の維持」、「卸売市場の未来」という、市場全体で取りうる方策の具体的な検討にまで至らなかった点が挙げられます。ただ、市場全体・他業種・自身の視点を行き来することや、市場全体の未来のデザインに焦点をあて、次回のワークショップへとつなげていこう、というご提案もいただきました。量的な指標を持たない価値について、選択実験から明確な指標を提供することと同等に、ワークショップなど場の設計・運営も、現場での対話や合意形成に重要であると感じました。

また、本ワークショップは、一般社団法人 全国中央市場青果卸売協会の多大なるご協力のもと、設計・開催することができました。研究の実施においても同法人のご協力無くして不可能でしたが、研究成果の社会への還元の第一歩も、同法人、東京大田青果物商業協同組合のご協力により実現することができました。

今後は、産地と消費地をつなぐ卸売市場について、まず研究から明確な指標を提示し、現場の方々とともにどのスパンでどんな協働からより良い卸売市場の未来をデザインできるのか、より具体的な行動に落とし込めるワークショップの実施へと発展させていきたいです。

アイテム

PC、プロジェクター、レクチャー用スライド、ワークシート、配布資料、筆記用具、ポストイット、消毒液

開催日時

2021年10月15日(金)

場所

東京都中央卸売市場大田市場・東京大田青果物商業協同組合会議室

参加者・人数

合計7名/卸売会社2名、仲卸業者2名、小売業者2名、業界団体1名

講師/ファシリテーター

佐野友紀(農学生命科学研究科・農学国際専攻D3)
秋山良文(一般社団法人 全国中央市場青果卸売協会)

原稿執筆:佐野友紀