企画の背景
総合教育科学専攻下山研究室では、ICTとメンタルヘルスというテーマを軸に様々なプロジェクトを行なっている。これまで抑うつや不安といったメンタルヘルスの問題解決の有効性が実証されている認知行動療法に、ゲーミフィケーション理論を加えて、利用者が楽しみながら、自分で自分の心理的問題を解決していくWebサービスを開発してきた。複数のサービスの効果研究を進める中で、長期間継続して利用してもらえればメンタルヘルス向上に効果を有するものの、そこに至るまでに利用を中止してしまうという脱落率の高さが共通した課題となっていた。そこで今年度はメンタルヘルス・サービスの継続性に焦点を当て、AIを活用することによりその課題の解決に向けた新たなサービスの開発を行うこととした。
どんなワークショップ?
本WSではAIエンジンを用いた対話型うつ予防アプリケーションの開発を行った。これまで開発したメンタルヘルス支援サービスの一つである「いっぷく堂」を題材とし、そこにAIを組み込むことで継続率の高い新たなサービスの開発を行うWSとなっている。なお、いっぷく堂は下山研究室で開発した、うつ予防を目的としたメンタルヘルス支援サービスであり、簡単な対話による自己モニタリングと行動提案機能が組み込まれている。
本WSの参加者は、まず現代におけるうつの問題と心理支援方法としての認知行動療法、ソーシャルICTを活用したうつ予防アプリケーションである「いっぷく堂」について学んだ。次に、AIエンジンに関する最先端の知識と活用状況、開発の実際について、アイフォーカス・ネットワーク社の外ノ池祐太氏を講師として学んだ。その後、グループに分かれてのコンテンツ作成と全体での打ち合わせを繰り返し、継続性を高めるサービス開発を行った。最終的に自らのプロジェクトへの参加過程を振り返り、WS実施者としての技能を身につけることを目的とした。
プログラム
(9.2) | WSの趣旨説明 | |
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(9.30) | コンテンツ作成のための打ち合わせ・作業 | |
(10.21) | コンテンツ作成のための打ち合わせ・作業 | |
(11.18) | コンテンツ作成のための打ち合わせ・作業 | |
(12.9) | 今後の発展に向けての検討 その他、各自の宿題としてパターン作成・カテゴリ分類を行った |
ワークショップの成果
両チームともに、働く女性のためのマインドフルネス・プログラムが考案された。以下に、それぞれのチームの成果について概説する。
Aチームは、①周囲を気にせず・気軽に・いつでもマインドフルネスを体験できる場の提供、②女性ならではの不調に対する職場の理解・普及を目的に、職場にマインドフルネス・スペースを設置することを提案した。スペースには専門家が待機しており、また五感に訴えるアイテムが置いてある。
Bチームは、いつでもどこでも使用できるアプリケーション・ポータルサイトを提案した。マインドフルネスに気軽に触れられ、実践の継続を促すような機能が導入されている。また、自身の月経周期に合わせたオリジナルのマインドフルネス実践プログラムを組み立てられることも、大きな特徴である。
ふり返り
今回の成果として得られたプログラムは、双方とも本WSの目的である「現代女性の日常生活に即したマインドフルネス」が実現可能な水準で提案されている。これは、WSの前半で参加者のマインドフルネスの理解を適切に促したうえで、臨床心理の専門知識に縛られない自由な発想が具現化されたことによると考えられる。また、考案時間をあえて短く設定したことにより、一般的知識よりも自分の体験に基づいたアイディアが採用されたことも、本WS独自の良かった点だと考えられる。
一方で、ターゲットである月経随伴症状に対するプログラムの効果あるいはマインドフルネス自体の効果について、客観的な基準を用いて測定できなかったことが、本WSの課題である。参加者の主観的な体験としても、マインドフルネス体験によって、今を丁寧に過ごすことの大切さとそれが自身のメンタルヘルスに与えるポジティブな影響に関する感想が得られた反面、自身の月経随伴症状への影響に関しては、本WS中に実感することは難しかったようであった。これについては、WS開催期間が1カ月であり、月経随伴症状に関する効果を実感するには短かったこと、参加者にとってマインドフルネスのインパクトが大きく、月経随伴症状というもう一方のテーマが強く意識されなかったことが推測される。
最後に、今回のWSは、GCLコース生の参加者に対してGDWS Bの単位として認定した。そのため、最終回にはWS自体のメタ・リフレクションと、自身のWS参加に関する評価を行った。これは、本WSの目的上、参加者には運営側の視点を外してWSに取り組んでもらう必要があったため、全てのWSが終了した後に、運営側の視点からWS全体を振り返ることで、自身が今後WSを企画する際のヒントとして役立ててもらうこととした。メタ・リフレクション自体は、WSのまとめとして有効な時間となったと評価できる一方、それまでの活動に対するコース生の参加をいかにWS Bとして求められるレベルまで引き上げるかが課題となった。
アイテム | PCまたはタブレット端末 |
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開催日時 | 2016.9月 - 12月 |
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場所 | 東京大学弥生キャンパス 総合研究棟演習室 |
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参加者・人数 | 10名 |
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講師/ファシリテーター | 外ノ池祐太(アイフォーカス・ネットワーク株式会社) |
原稿執筆:菅沼慎一郎